○ 防火対策と防火材料等の役割
防火対策を効果的なものとするためには、火災進展の各段階に最も適合した対策を立てる必要があります。表1に示すように、防火材料、防・耐火構造などは、種々の防火対策を実現するための具体的な手段としての役割を担っているといえます。そして、これらは、性能が高いものから低いものまでいくつかに級別されて、建物の用途、規模、構造、敷地、市街地条件などに応じて使い分けられているのです。
最も基本的な防火対策は、出火を防止し、たとえ出火してもそれが初期火災にまで至らないようにすることです。そのためには、燃焼を出火源及びその周辺の可燃物だけにとどめる必要があり、壁や天井の内装を通常の火源による加熱では着火しにくい、または着火しない防火材料で仕上げること、すなわち内装不燃化が最も効果的です。次に万一内装材に着火しても、初期火災の拡大やフラッシュオーバーの発生を防止し、または、これらの発生を遅らせて、初期消火や早期避難のための時間を確保するような対策が必要となります。このためには、たとえ燃えても火災拡大を助長する熱や火炎をあまり出さないような防火材料で内装仕上げを行うようにします。さらに、フラッシュオーバーが起きると、火災室から大量に放出される熱、煙及び有害ガスが安全避難を阻害します。そこで内装材には、これら3つの阻害要因の発生量が少ない材料を用いる必要があります。
フラッシュオーバー:出火から火災初期と時間の経過とともに燃焼範囲は拡大し、室内温度も少しずつ上昇し、ある時期に室内温度が急上昇し、火災室全体が火炎に包まれる現象
表1 火災の進展段階、防火対策及び防火材料等の関係
火災の種類 |
火災の進展段階 |
防火対策 |
防火対策に用い
られる防火材料等
(種類・性能) |
目的 |
対象部位 |
対策の内容 |
内部火災 |
出火 |
内装材への着火防止 |
壁、天井 |
着火しにくい内装材を用いる |
不燃材料、準不燃材料、難燃材料 |
初期火災 |
内装材の燃焼拡大防止 |
壁、天井 |
熱の発生が少なく燃え広がりにくい内装材を用いる |
不燃材料、準不燃材料、難燃材料 |
フラッシュオーバー |
煙・有害ガスの発生防止
(避難安全) |
壁、天井 |
熱、煙及び有害ガスの発生が少ない内装材を用いる |
不燃材料、準不燃材料、難燃材料 |
火盛り期 |
建物内部及び隣棟への延焼防止 |
壁、床、屋根、開口部 |
耐火被覆を設ける等により燃え抜けない構造とする |
耐火構造、準耐火構造、防火設備、特定防火設備 |
倒壊防止及び隣棟への延焼防止 |
柱、はり、耐力壁 |
耐火被覆を設ける等により崩壊しない構造とする |
○ 内装制限
建築基準法では、初期火災の成長を遅延させ、火災の初期における安全避難を実現させるとともに、火災が成長しても、煙の発生を少なくし、避難を妨げないようにするために、建築物の内装材料の種類を制限しています。この内装制限の主目的は、建築物内の人命の安全確保であるので、その対象建築物は、
内装制限一覧表のように人命の安全確保との関係で定められています。
これらの建築物の壁、天井(天井のない場合は屋根)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く)の仕上げには、
内装制限一覧に示す材料を使用しなければなりません。
ただし、壁と天井の材料を国土交通大臣の定める組み合わせとした場合には、壁の仕上げを木材等とすることが可能です。 (平成12年建告第1439号)
○ 防火材料の種類
防火材料は、不燃材料、準不燃材料、難燃材料の3つのグレードに分けられ、国土交通大臣の認定が行われています。
@ 不燃材料
通常の火災による火熱を加えられた場合に、加熱開始後20分間燃焼せず、防火上有害な、変形、溶融、き裂その他の損傷を生じず、かつ避難上有害な煙又はガスを発生しない材料です。
A 準不燃材料
通常の火災による火熱を加えられた場合に、加熱開始後10分間燃焼せず、防火上有害な、変形、溶融、き裂その他の損傷を生じず、かつ避難上有害な煙又はガスを発生しない材料です。
B 難燃材料
通常の火災による火熱を加えられた場合に、加熱開始後5分間燃焼せず、防火上有害な、変形、溶融、き裂その他の損傷を生じず、かつ避難上有害な煙又はガスを発生しない材料です。
<防火材料のしおり>より